LTEでドコモまた「ガラパゴス」

“最先端病”ドコモが12月開始の次世代規格。が、欧州勢の尻込みで「今度こそ」も空しく。

2010年8月号 BUSINESS

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次世代携帯の規格「LTE」のチップ

AP/Aflo

日本の携帯電話が「LTE」(Long Term Evolution)と呼ばれる次世代規格でも、ガラパゴス化への道を突き進む可能性がでてきた。

NTTドコモが12月開始予定の「LTE」は、一秒あたり下り最大75メガビット、上り最大25メガビットと、光ファイバー並みの通信速度を誇る。第3世代(3G)の「W-CDMA」の進化形であり、第4世代に限りなく近いことから3.9世代などと呼ばれている。

スマートフォンや電子ブック端末といった大容量のコンテンツ利用が多いモバイルネット端末の普及で、トラフィック(通信量)が増大することを見越し、世界に先駆けて本格的サービスを開始するという。

しかしこの「最先端病」が心配のタネなのだ。ドコモはこのLTEの世界標準(グローバル・スタンダード)化に意欲を燃やし、「3GPP」と呼ばれる移動体通信システムの標準化プロジェクトで主導的な役割を果たしてきた。世界最先端に自ら酔いしれて、ユーザーを置き去りにする結果、世界標準になれず徒花に終わる――いつか来た道ではないか。

日本独自規格のままで終わった2Gの「PDC」も、世界に先駆けて実用化が始まった3GのW-CDMA(サービス名は「FOMA」)も、ガラパゴス化した先例である。

スウェーデンでは数千人

2Gユーザーを早く切り替えさせようと、基地局設備など3Gのインフラを、世界に先んじて早期に導入したのはいいが、以前のバージョンとの互換性(バックワード・コンパチビリティ)のない仕様が3Gで次
々と決まり「ドコモのインフラでは対応できない状況が生まれて、それを今でも引きずっている」(あるベンダー関係者)という。

一説には、PDCの反省から、ドコモはW−CDMAで世界をリードしたと言われるが、実際にはW-CDMAの無線部分は米クアルコムのCDMAが進化したもので、ネットワーク部分はスウェーデンのエリクソンのGSMが進化したものだった。いわば、米国+欧州の技術でできた規格であり、日本はカヤの外に置かれていたのだ。それでも先走ったあげくの孤立である。

その悔しさをバネに現在はドコモを中心に日本のメーカーや総務省がLTEの標準化を主導しているが、二度あることは三度ある。熱い思いとは裏腹に「日本勢が騒ぐだけで、海外勢は完全に尻込みしている」(ある関係者)のだという。

もちろん、エリクソン、アルカテル、シーメンス、ノキアなど欧州勢も、LTEには取り組んでいる。だが、ドコモのような「最先端病」ではない。サービスが開始されて市場が立ち上がれば商売ができるわけだから、あとから追いかければいい。「小判鮫」のほうが楽に儲けられる。海外の通信事業者(オペレーター)も「情報収集のために参加している」(ある関係者)程度で、本気度はさっぱり感じられないという。

そもそも欧州などの地域は、やっと3Gが普及し始めた段階で、まだ2Gの利用者も多い。加えて、周波数帯の入札がなくタダ乗りのドコモと違い、オペレーターは過去の入札でキャッシュリッチな状況ではない。今の段階で「LTEの設備投資にまで手が回らない」のが実情だ。

実はLTEの商用化サービスは、ドコモが世界初ではない。スウェーデンのテリアソネラが、月額8千円程度ですでにスタートしている。ただ、エリアは限定的で、ストックホルムとオスロの一部地域だけ。利用者数も数千人にとどまる。同社幹部は、5月にアムステルダムで開かれたLTEの会議で「実験はもういい。すぐに商用サービスを始めよう」と呼びかけたが、LTE導入に海外オペレーターがどこも慎重なことの裏返しとも言える。

業界団体のGSA(Global Mobile Suppliers Association)のリポートは「今年中に22のオペレーターがLTEの商用化をコミットしている」と伝えたが、あるオペレーター幹部は「確かに『LTEをやる』とは言ったが、『いつから』とは明言していない」と打ち明ける。

最近になって「海外のオペレーターは3.9世代をひとつ飛ばして、2010年代後半に登場するとされている次々世代(4G)に照準を合わせているのではないか」と囁かれはじめた。そうなると、LTEの「グローバル仕様」とは名ばかりで、日本人がつくって日本と海外の限られたオペレーターだけが使う規格になる可能性もある。6月28日付の日本経済新聞は、「ドコモがLTE回線を事業者に貸し出す」と報じたが、1300人契約分で1千万円前後では高過ぎて誰も手が出せない。

LTEの大容量ネットワークのメリットを活かして、世界をあっと言わせる製品やビジネスモデルをつくりあげれば、海外勢は否が応でも日本に追随するはずだが、すでにスマートフォンはアップルに牛耳られ、コンテンツはグーグルに押さえられた現状では、それも望み薄だ。

ましてや、この期に及んで垂直統合の「本丸」SIMロック(携帯端末を他の通信会社で使わせないようにする装置)の温存に業界を挙げて奔走しているのだから、内弁慶のガラパゴス症候群も末期症状だ。

ただ、望みがないわけではない。ドコモの山田隆持社長は、来年4月以降、利用者の希望に応じてSIMロックを解除する方針を明らかにして、業界を驚かせた。SIMフリーの仕組みを端末に実装するには相応のコストもかかるだけに、通信事業者との一体化で開発してきたメーカーには不安が広がっている。

それでもロック解除に踏み切るのは、ソフトバンクモバイルが囲い込むスマートフォン「iPhone」の口をこじ開けるため「肉を斬らせて骨を断つ戦法」というのが専らの見方。だが、いくら人気端末とはいえ、それだけでドコモが率先して垂直統合を“開城”するとは思えない。

総務省と裏取引の見返り?

ある通信会社幹部や複数の業界関係者は「総務省となんらかの裏取引があるのでは?」と疑う。6月末に公表した総務省ガイドラインで「業者の自主判断」としたことが骨抜きと批判されただけに、最大手がSIMフリーを選んだことでメンツが保てる。だとしても、その見返りは?

「アナログ地上波停波の空き地周波数の割り当てではないか」「民主党政権の選挙がらみなのか」などと憶測が乱れ飛ぶ。残念ながら取材の過程ではまだ突き止められなかった。

ただ、ガラパゴスの元凶とも言えるSIMロックの解除に一定の道筋が作られたことで、垂直統合の一角がオープンになるわけだから、海外からの競争にさらされて淘汰される企業やサービスも出てくるだろう。ビジネス的においしい部分は、アップルとグーグルに席巻されるかもしれない。その一方で日本の携帯業界にも新風を吹き込む可能性はある。

ドコモはソフトバンクの糧道を断つといった発想ではなく、IP(インターネットプロトコル)ベースでオープンなインターネットと親和性の高いLTEのメリットを活かしたエコシステムを構築すべきだ。そこで、さらなるガラパゴスと化すか、大容量のモバイルインターネットで世界をリードする国になれるかが決まる。

ドコモの責任は重大だ。

   

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