毎日新聞が共同通信加盟の衝撃波

2009年12月号 DEEP [ディープ・インサイド]

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経営不安が囁かれてきた毎日新聞社が共同通信社に加盟し、国内ニュースの記事配信を受けることが決まった。年内にも発表の見通しだ。1952年に朝日、読売と共に脱退するまで加盟していたので、正確には半世紀を経た再加盟となる。生き残りを賭けた毎日の共同入りは、業界再編の「号砲」ともいえ、新聞業界に衝撃を与えそうだ。

共同は各地方紙・ブロック紙、日経、産経、NHKなどの加盟社から部数に応じた「社費」を徴収し、東京本社や全道府県、海外に拠点を持ち、記事を配信している。これに対し、朝日、読売、毎日は全都道府県と海外に取材網を持ち、国内ニュースは共同に頼らず、独自に新聞をつくってきた。

毎日の朝刊発行部数は約380万部(09年1~6月、ABCレポート)。昨年度の売上高(単体)は約1380億円で、経常利益は約27億円の赤字。部数と広告の減少で売上高は04年度以来、毎年ダウンし、この5年で200億円近く減った。今年3月末現在の従業員は2887人(平均年齢44・4歳)で、平均年間給与は約850万円だ。

毎日関係者によれば、収入減に苦しむ社内では「地方の事件や事故、自治体のニュースなどは共同に任せ、コストのかかる支局を再編すべき」「ネットが先に報じるストレートニュースより、新聞でしか読めない質の高い解説記事や、今後を占う掘り下げた記事を充実させる」「独自色を出すためにも共同に加盟し、記者を再配置する必要がある」などの意見が上がっていたという。しかし、「全国紙の看板を降ろすわけにはいかない」と主張する現役幹部やOBの反発にあい、検討はされても、遂に実現には至らなかった。

共同加盟に漕ぎ着けたのは「赤字転落の影響で、反対勢力の間にも前途を危ぶむ声が上がりだしたから」(毎日関係者)。経営陣は社内やOBに配慮して原則、支局は廃止しない方針。加盟後は地方から東京本社などへ記者を吸い上げ、紙面の充実を図る考えだ。もちろん全国紙の看板は降ろさない。

毎日の部数は首都圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)と関西圏(大阪、京都、兵庫、奈良)でいずれも100万部を超える。この数字を維持するには記者の重点配置による紙面の強化が不可欠だ。とはいえ、富山県(1859部)や石川県(2468部)、徳島県(3713部)、高知県(4804部、いずれもABCレポート)など、「部数低迷が著しい支局の維持は困難」(毎日関係者)との見方もある。

一方、毎日は東京、大阪、名古屋、福岡の一等地に居を構える社屋を主とした貸しビル業が堅調で、100%子会社の毎日ビルディングの前期決算は約117億円の売り上げに対して経常利益が約27億円という超優良経営だ。毎日の朝比奈豊社長は今年6月、毎日ビルの社長にも就き、毎日ビルの収益が「共同加盟費や社内構造改革(合理化)負担を下支えする構図」と関係者は解説する。

共同関係者は「毎日の加盟は朝比奈社長と共同の石川聰社長が意気投合して決まった。読売、朝日に対抗する共同、毎日、地方紙・ブロック紙連合への第一歩」と語る。

朝日、読売、毎日の合計部数は約2千万部だが、共同に加盟する一般紙の総部数は2500万部にのぼる。毎日の380万部が移れば、両陣営の差は一段と開く。共同と各地方紙・ブロック紙はネットを含めた協調路線を推進しており、毎日が加盟すれば、そのスケールも拡大する。「共同の理事会を構成する地方紙・ブロック紙は読売の販売攻勢を恐れているので、表立って反対したところはない」(共同幹部)

意地悪な見方をすれば、地方紙はもはや「毎日の販売力に脅威を感じていない」とも言えるが、もともと部数の落ち込みは、地方紙より全国紙の方がはるかに深刻だった。

新聞経営に詳しい全国紙OBは「ネットを中心とした朝日、読売、日経の連携や、朝日と中日新聞の印刷にまつわる提携など、業界再編が模索される中で、共同加盟をきっかけに毎日の業績が好転したら、業界への影響は大きい」と話す。

なかでも、05年3月期に比べ売上高(単体)が約624億円も減った朝日の出方が注目されるという。この先、部数も広告も伸びる見通しのない朝日は「来期はボーナス・ゼロ」など厳しいリストラ策を検討している。「毎日の後を追い共同加盟を目指す可能性がある」と全国紙OBは先を読む。

   

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