ついに堤義明が法廷に登場 先行き不透明な西武グループ

2008年8月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]

  • はてなブックマークに追加

05年に西武鉄道株をめぐるインサイダー取引で執行猶予付きの有罪判決を受けて以来、久々に堤義明・元コクド会長が公の場に現れた。7月7日に東京地裁で開かれた旧コクド株持ち分権確認訴訟の証人質問。傍聴席には異母兄の堤清二氏をはじめ、実弟の堤康弘・元豊島園社長や堤猶二・東京テアトル会長ら原告側が顔を揃え、被告の義明氏の発言に熱心に耳を傾けていた。

義明氏は薄いグレーのスーツに白いワイシャツ、水色のネクタイを締め、被告、原告双方の弁護人の質問にはっきりした口調で答えていたが、傍聴席に座る兄弟たちと目を合わせることはなかった。原告側弁護人が、週刊誌などで「荻窪夫人」と取り沙汰された女性との間に「子供はいないのですか」と問い質した際には「いません。どうして、そんなことを訊くのか」と声を荒らげる場面もあった。

裁判の争点は、西武グループの中核会社だった旧コクド(06年にプリンスホテルに吸収合併)の株式が誰のものだったかということ。原告側は、旧コクドでは組織的な名義偽装が行われていて、株主名簿に記載されていた社員やOBは名義貸しをしていただけであり、実質的には創業者で父親の堤康次郎氏が所有していたと主張。これに対し被告側は、名義偽装は一切なかったと反論している。

この裁判が注目されるのは、原告の主張が認められれば、05年から06年にかけて実施されたグループ再編が無効になる(少なくとも再上場が遠のく)可能性があるからだ。仮処分申請時の地裁、高裁の判断や国税当局の税務調査では、旧コクド株の名義偽装が行われていたことがすでに認められている。この日の法廷でマスコミの姿が目に付いたのも、単なる「堤家のお家騒動」ではなく、西武グループの今後を左右しかねないと見ているからだ。

義明氏はメーンバンクから送り込まれた後藤高志・西武ホールディングス社長(元みずほコーポレート銀行副頭取)と表向きは手を携えているが、心中では創業家の影響力を削ぐ施策を次々に打ち出し、グループの資産を切り売りして借金返済を優先する後藤氏への不満が高じているようだ。

最近の義明氏に動揺の色が濃いのも無理はない。08年3月期連結決算で西武ホールディングスは減収減益。子会社のプリンスホテルは赤字に転落した。「後藤さん以下、首脳陣はホテル経営を知らないから、現場ではとんでもないことが起きている」と西武グループ関係者は指摘する。例えば、系列ホテルにおける食中毒の続発。昨年1月の川越プリンスホテルの日本料理店、同12月の軽井沢プリンスホテル社員食堂、今年1月の万座プリンスホテル、同6月の品川プリンスホテル、と立て続けに食中毒騒動が起きている。

「新体制下のリストラで有能なスタッフが櫛の歯が欠けるように抜けたのが響いている」と前出の関係者は明かす。日教組全国集会の開催をグランドプリンスホテル新高輪が一度は引き受けながら強引にキャンセルした問題でも「ホテル運営のプロがいたならあり得ない話」。さらに、憲法の定める「集会・結社の自由」を擁護する観点から日教組の会場使用の承諾を促した地裁、高裁の仮処分決定にも従わなかったため、「『プリンスは憲法を無視するホテル』というレッテルを貼られ、深刻なイメージダウンを被った」と嘆く。

7日の法廷で傍聴者の関心を集めたのは、原告側代理人の外立憲治弁護士が「あなたが西武グループ再編に応じたのは後藤氏との間に利益供与の密約があったからではないのか」と義明氏に迫った場面。義明氏は否定したが、当時の不明朗な経緯が明らかになれば後藤体制に激震が走るのは必至。西武グループの先行きは見通せない。

   

  • はてなブックマークに追加