しゃにむに押す建前と正義感

『女子の本懐 市ヶ谷の55日』

2007年12月号 連載 [BOOK Review]
by 石

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『女子の本懐  市ヶ谷の55日』

『女子の本懐 市ヶ谷の55日』(小池 百合子)

出版社:文藝春秋(文春新書) 750円+税

初代防衛相の失言による辞任のあと、国防史上初の女性防衛大臣となった小池百合子氏。その一挙手一投足が注目されたが、事務次官人事にからんで2カ月足らずでリタイア、マスコミに肩すかしを食わせた。退任から2カ月足らずで、今度は防衛相在任の55日間を日記風にまとめたのが本書である。

タイトルは言うまでもなく、ご本人が退任の記者会見で述べた台詞。タイトルといい、スピーディーな出版といい、話題を狙ったのは明らかだが、さて「女子の本懐」とは?

読み進めて、まず目を引くのは一般には知られていない防衛省、自衛隊の約束事の類である。防衛省入り口の立哨は大臣以下幹部が通るたびに「服務中、異状なし」と叫ぶ。陸上、航空自衛隊で「決断」というのを、海上自衛隊では「決心」という。防衛相の私邸には秘話通話が可能な専用電話が取り付けられる。

どうということもないが、女性ならではの目配りというか、読者を退屈させないサービスというべきか。その辺は心得ている。

環境相時代からキャッチフレーズにしていたオンリーワンを、防衛相としても心がけたと繰り返す。 だが、中越沖地震の際、自衛隊員の握るおにぎりは高齢者や女性、子どもには大きすぎるなど、きめ細かに対応するよう指示したことが、「女性防衛大臣ならでは、オンリーワンの発想に基づく」と言われると、苦笑せざるを得ない。

読者の関心の大半は事務次官人事を巡るいきさつの真相だろうが、「国防上の観点から、控えるべき部分にも配慮した」ためでもあるまいが、報道された事実を超える部分は見あたらない。

面白いのは、人事問題で安倍総理に進退伺を出すと、総理が「辞めるなんて、言わないでください。お願いだから」と悲しそうな顔で言ったこと、守屋次官に退任後顧問になるよう要請すると、「顧問では生活できない」と答えたというあたりか。

テロ特措法に関して印パ両国を訪れ支援要請を受けた、訪米で日米同盟関係の強化を進めた、環境アセスメントの方法書を送付して普天間飛行場移設への道筋をつけた。そうした事実を挙げ、「2カ月で2年分の仕事をした」と豪語する。本書からは、それらの仕事がどれほど重要であったか理解しにくいけれど。

「女子の本懐」とは結局、女性である小池氏が初めて防衛相を務めた事実そのものを指すようだ。だからこそ、防衛省、自衛隊のPRに務め、防衛に関する機密保持の重要さ、テロ特措法の必要性を語るのだろう。

読者の期待と内容が噛み合わないことを除けば、彼女の主張は明快に伝わってくる。「女子の本懐」をはじめ、守屋次官の「ひとり二・二六」「嫉妬を男偏に変えて」など、言葉遣いも巧みだ。

今や押しも押されもせぬ政治家となった小池氏の、この本を読んでいると、世代交代によって政治が変わり、政治家が変わりつつあることを痛感する。

建前と正義感でしゃにむに押す、説明責任を果たす政治とでもいうのか。そんな時代に、小沢一郎流の剛腕腹芸政治はとても理解されまい。

   

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