「希望の大麦」東松島市に根づく 「真のなりわい」へ

希少な東北産大麦で新たな産業創出を目指す「希望の大麦プロジェクト」。契約栽培に移行し、6月には56tを収穫予定。

2019年6月号 INFORMATION

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宮城県東松島市に広がる大麦畑に、今年もまもなく麦秋が巡ってくる。収穫を6月に控え、穂は黄金色に輝きを増している。

東日本大震災の翌年に設立された市の外郭団体「一般社団法人東松島みらいとし機構(HOPE)」は、単なる復旧に留まらない創造的復興を目指して様々な取り組みを行う中、アサヒグループと共に2014年から「希望の大麦プロジェクト」を進めてきた。市街地の65%が津波により浸水したこの地で、被災土地の有効活用を模索、大麦栽培を始めたのだ。大麦はビールや菓子、麦茶などの原料。北関東に並ぶ高品質なビール麦栽培を東北で実現することを目指し、アサヒグループの知見やネットワークなどで支援し、15年に栽培に成功。試験栽培を重ね収穫量を増やしてきた。

昨年のGRAND HOPE IPAの仕込み式

「地元になりわいとにぎわいを生み出そう」と立ち上がった同プロジェクトは、今、「真のなりわい」へと脱皮するため、新しいフェーズに入っている。試験栽培では、HOPEが農業生産法人に報酬を支払い、作ってもらった大麦をビール醸造などの企業に無償で提供していたが、17年以降は出来高に応じてお金を払う契約栽培に移行した。購入した大麦は企業に有償で販売する。昨年には産業として成り立つ規模の収量を確保するため、新たな作り手にも加わってもらった。作付面積は15haとなり、6月に56tの収穫を見込む。

希望の大麦を使用した商品も増えてきた。当初からの仲間である、やくらい地ビール製造所の東松島地ビール「GRAND HOPE」や大麦工房ロアの焼き菓子に加え、16年からアサヒグループのクラフトビール醸造所、隅田川パブブルワリーが「希望の大麦エール」の限定醸造を開始。17年からはアサヒビールでも希望の大麦を一部使用した「クリアアサヒ」東北限定商品の販売を始めた。今年は6月18日発売の予定だ。さらに、仙台市の穀町ビール、盛岡市のベアレン醸造所も今年、希望の大麦を使用したビールを製造。できたビールは「それぞれ麦の味わいが濃厚に感じられる出来」(関係者)で、ビールファンを喜ばせている。

希望の大麦を使った商品

産官学民の支援で始まったプロジェクトの最終目標は、地元だけの力で農業経営や加工販売ビジネスが成り立つようになること。情報発信にも力を入れ、昨年の「GRAND HOPE IPA」の発売時には県外からも反響があった。プロジェクトが播いた復興の種は、目標実現に向け自ら大きく伸びようとしている。(編集部)

   

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